常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)

多発性嚢胞腎(PKD)外来のご案内

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)はどんな病気?

Figure1常染色体優性多発性嚢胞腎(以下 多発性嚢胞腎)は、その名前の通り遺伝子がかかわる病気で、主に腎臓に、嚢胞(のうほう)という水分がたまった小さな袋が沢山できてしまう病気です。この嚢胞は、年齢とともに段々と数が増え、大きさが大きくなると、腎臓の機能を悪くしてしまいます。この多発性嚢胞腎という病気の患者さんのうち約半数の方が、70歳になるまでに腎臓の機能が悪くなり、透析や腎移植などの腎代替療法が必要になります。

腎臓以外の臓器にも嚢胞ができやすく、多くの患者さんで肝臓に嚢胞ができます。また、特に注意しなければいけないのは脳動脈瘤で、5~10%程度の患者さんに見られます。多発性嚢胞腎に合併した脳動脈瘤は、破裂して脳出血を起こすリスクが高いので、病気が診断されたら必ず脳の検査を行います。
頻度が高く、治療を必要とする症状として、高血圧があります。多くの患者さんで高血圧を起こし、血圧が高いと腎臓の機能に良くない影響を及ぼすことから、血圧を正常にコントロールすることがとても大切です。多発性嚢胞腎の治療の要は、血圧コントロールといっても過言ではないでしょう。
その他、大腸憩室や、僧房弁逆流症といった合併症もみられます。(詳しくは [常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の症状] の項目をご参照ください)

いずれの病態も、患者さん一人一人で症状が異なります。透析が必要となる方がいらっしゃる一方、生涯何も症状が出ずに、医療を必要とされない方もいらっしゃいます。ご自分にどのような症状があるのか、担当の先生とよく相談しましょう。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の原因

多発性嚢胞腎は、遺伝子の異常で起こる病気です。原因となる遺伝子は、PKD1もしくはPKD2という遺伝子です。この遺伝子の一部が壊れていたり、欠けたりしていることが原因で症状が生じます。嚢胞腎の患者さんのうち85%がPKD1に、残りの15%がPKD2に異常があるといわれています。PKD2が原因で起こる多発性嚢胞腎の方が、症状が軽いといわれていますが、これも個人差があります。

常染色体優性多発性嚢胞腎、という名前が現す通り、この病気は優性遺伝で遺伝します。具体的には、嚢胞腎の患者さんのお子さんは、二分の一の確率で、遺伝子の異常を受け継ぎます。お子さんが何人いても、その一人一人に遺伝する確率は二分の一です。病状も、血縁者で似たような経過をたどることが知られています。そのため、血縁者の方の病状を把握しておくことが、治療の手助けになります。

Figure2

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の診断

多発性嚢胞腎の診断は、ガイドラインに示されている診断基準に基づいて行われます。診断には、家系に多発性嚢胞腎の方がいるかどうかと、画像検査において両方の腎臓に、多発する腎嚢胞があるかどうかがポイントになります。遺伝子診断については、費用が高額なことと、必ずしも原因遺伝子を特定できないことから、現時点では国内ではほとんど行なわれておりません。 診断基準については、表 をご覧ください。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の症状

腎嚢胞 (痛み、出血、感染)

Figure3嚢胞腎の最大の特徴である腎嚢胞ですが、この腎嚢胞のサイズが大きくなったり、数が増えるに従い、腎臓そのものの大きさがとても大きくなります。これにより、背中を圧迫されるような痛みや、膨満感、食欲が落ちる、といった症状が出ることがあります。治療としては、内服薬のトルバプタン(商品名:サムスカ)や、嚢胞開窓術等があります。(詳しくは [常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療] の項目をご参照ください)

腎嚢胞が出血を起こすこともあります。自覚症状としては血尿が出ます。通常は安静にすることで治まる事が多いですが、出血が続いてしまった場合には、腎血管塞栓術などの治療を必要とします。(詳しくは [常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療] の項目をご参照ください)目で見てわかる血尿が出た時は安静にし、病院を受診しましょう。

腎嚢胞に細菌が繁殖してしまい、嚢胞感染を起こすこともあります。症状としては、背中の痛み、高熱、全身倦怠感などがあります。時には高熱のみの場合もありますので、原因不明の高熱が出た場合には、病院を受診しましょう。治療は、抗生物質の内服か点滴です。症状が重い場合は、入院することもあります。感染の原因としては、特に女性の場合、まず膀胱炎を起こして、その菌が逆流して上に上がり、嚢胞感染を引き起こすことが多いです。そのため、膀胱炎の予防が大切です。寝る前や性交渉後には必ず排尿すること、陰部を拭く時は必ず前から後ろに拭くようにすることが大切です。冷えから膀胱炎を引き起こすこともあるので、下腹部は冷やさないように気を付けましょう。

肝嚢胞

多発性嚢胞腎の患者さんでは、腎臓のみならず、肝臓にも嚢胞ができます。その程度には、個人差があります。自覚症状はないことが多く、肝臓の機能は悪くならないことが多いです。しかし中には肝嚢胞により肝臓がとても大きくなってしまい、腹部膨満感や食欲不振などの自覚症状が出る方もいらっしゃいます。治療として、肝動脈塞栓術などがあります。(詳しくは [常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療] の項目をご参照ください)

高血圧症

多発性嚢胞腎は、非常に高い頻度で高血圧症を起こします。高血圧は腎臓の機能を悪くしてしまうので、血圧のコントロールはとても大切です。腎嚢胞が大きくなる前から高血圧を発症することも多く、早い段階で血圧の治療を受けることが大切です。具体的には、血圧130/80mmHg以下を保てるように、食事療法やお薬の治療を行います。血圧は自宅で測定し、記録をつけるようにしましょう。また、塩分を控えることがとても大切です。降圧薬としては、ACE阻害剤か、ARBという種類のお薬が推奨されています。(詳しくは [常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療] の項目をご参照ください)

脳動脈瘤

多発性嚢胞腎では、脳動脈瘤の合併率が高く、さらに破裂を起こしやすいことが分かっています。若くても破裂することがあるので、嚢胞腎と診断をされたら、まず脳動脈瘤の検査を受けることが大切です。具体的には、MRI (MRA)検査を行います。脳動脈瘤が見つかった場合には、脳外科で治療を受けることになります。一度の検査で脳動脈瘤がなくても、数年に一回は検査を受けましょう。

心血管障害

多発性嚢胞腎では、心臓や血管の病気を合併することがあります。特に心弁膜症という、心臓の弁の機能が悪くなる合併症は、20%程度の方に生じます。心弁膜症があっても、治療が必要でない場合も多くあります。検査としては、心臓の超音波検査が有用です。(すべての多発性嚢胞腎の患者さんが、必ず心臓の精密検査を受けなければいけないわけではありません。)

尿路結石

多発性嚢胞腎では、尿路に結石ができやすいことが知られています。腎臓にできた結石が尿管に落下し尿管を詰まらせると、尿管結石になります。尿管結石の発作は、突然背中やわき腹に激しい痛みが生じます。痛みだけでなく、尿管を詰まらせることで一時的に腎臓の機能が悪くなることがあるため、特に多発性嚢胞腎では、尿管結石発作の予防が大切です。十分に水分を摂取することや、バランスの取れた食生活が予防に大切です。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療

内服治療;トルバプタン(製品名:サムスカ)

今まで多発性嚢胞腎に対する治療薬はありませんでしたが、バソプレッシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタンが、多発性嚢胞腎の嚢胞の増大や腎機能の低下を抑える効果があることが分かりました。日本を含む世界15か国で治験が行われ、その結果を受けて、2014年3月末に、日本国内において、多発性嚢胞腎の治療薬として認可されました。多発性嚢胞腎に対する初めての治療薬です。
しかしこのお薬は、すべての多発性嚢胞腎の患者さんに適応があるわけではありません。

腎臓の体積が750ml以上、かつ1年間の腎容積増大率が5%以上の患者さんが適応です。また、クレアチニンクリアランスが60ml/min未満の患者さんでは、安全性は確認されていません。これらは、画像検査(CTやMRI)による腎体積の測定と、血液検査の結果から判断されます。
また、どんなお薬にも副作用があるように、このお薬にも副作用があります。注意しなければいけない副作用として、脱水による高ナトリウム血症や、肝機能障害といったものがあります。これらの副作用の発症を見逃さないために、月に一回の血液検査を行います。

このお薬はどこの病院でも処方できる、といったお薬ではなく、処方する資格を持った医師のみが処方できます。そのため、内服を希望する患者さんには、専門医への受診をお勧めします。また、初めて内服を始めるときには、入院が必要です。入院治療の詳細については「ADPKDに対する内服治療:トルバプタン(サムスカ®)」をご覧ください。

順天堂医院では、月曜日午後の堀江医師の外来、もしくは火曜日、木曜日午前のPKD外来にて対応いたします。電話にてご予約を承ります。順天堂医院代表;03-3813-3111 にお電話いただき、泌尿器科外来の予約を希望、とお伝えください。普段通院している病院からの紹介状をご持参頂きますよう、よろしくお願いいたします。

降圧剤

多発性嚢胞腎の治療において、血圧のコントロールは大変重要です。食事療法や、生活習慣の改善を行っても血圧がコントロールできない場合は、お薬の治療を行います。降圧剤の中でも、その作用機序から、ACE阻害剤、もしくはARBという種類の降圧剤が推奨されます。しかし、嚢胞腎の高血圧はコントロールが難しく、このようなお薬だけでは血圧が下がりきらない場合があります。そういった場合には、ほかの種類の降圧剤を併用します。

血圧の目標値は130/80mmHgです。自宅で血圧を測り、手帳に記録しましょう。診察の度に担当の医師に血圧を報告しましょう。

腎血管、肝血管塞栓術(TAE)

コントロールできない嚢胞出血の治療や、嚢胞により大きくなった腎臓や肝臓のために、苦痛を感じる方に対する治療として行われます。
腎血管塞栓術の場合は、腎臓の太い血管を詰めることによって、嚢胞が小さくなり、腎臓自体も小さくなります。しかし、血管を詰めてしまうと腎臓の機能はなくなってしまうため、人工透析を受けている方、もしくは腎移植術後の方に対する治療です。
一方、肝血管塞栓術は、肝臓の一部分の血管を詰める治療です。肝嚢胞が多い部分を狙って詰めることになります。肝嚢胞を小さくするために行いますが、すべての血管を詰めてしまうことはできないため、やや効果は限られます。

人工透析療法(血液透析、腹膜透析)

多発性嚢胞腎では、約半数の患者さんが70歳までに腎臓の機能がとても悪くなり、老廃物や余分な水分を排出することができなくなります。腎臓の機能がおおむね10%以下まで落ち込んだ場合に、人工透析を必要とします。人工透析には二種類があり、一般的に広く行われているのが血液透析です。血液透析器という機械に自身の血液を通して濾過し、きれいにした血液をまた体に戻します。もう一つの腹膜透析は、おなかの中に透析液という液体を入れて、腹膜を介して透析を行うことができます。この方法だと自宅で透析できるというメリットがありますが、多発性嚢胞腎の患者さんでは、腎臓や肝臓が嚢胞によりとても大きくなっているため、お腹のスペースが足りず腹膜透析を選択できないケースが多いです。担当医の先生とよく相談し、透析法を決定しましょう。

腎移植術

腎臓の機能が悪くなった時の治療として、透析療法以外の選択肢として腎臓の移植術があります。腎臓の移植には、亡くなった方から腎臓の提供を受ける献腎移植(死体腎移植)と、家族などのドナーから、二つある腎臓のうち一つを譲り受ける生体腎移植があります。日本においては、死体腎の提供数が非常に少ないことから、生体腎移植が主流です。血縁者から腎臓を譲り受ける場合に重要なことは、ドナーとなる方が多発性嚢胞腎ではないことが大切です。

順天堂大学でも生体腎移植を実施しております。詳しくは腎移植(腎不全に対する腎臓移植)をご覧ください。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)に対するQ&A

Q. 運動はしてもよいですか?
A. はい。構いません。適度な運動は、血圧をコントロールするためにも有効です。ただし、格闘技やラグビーなどの体がぶつかる激しいスポーツは避けるべきです。

Q. 妊娠や出産はできますか?
A. 妊娠に関しては、男性も女性も、特に問題はありません。妊娠期には、高血圧の治療薬であるACE阻害剤やARBは内服できないので、お薬の変更が必要です。また、多発性嚢胞腎の方は、通常よりも妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になりやすく、注意が必要です。多発性嚢胞腎の担当医師と、産婦人科医との連携が必要ですので、妊娠を希望されている方、妊娠中の方は担当医に相談しましょう。

Q. 子供もすぐに検査を受けたほうが良いですか?
A. 多発性嚢胞腎のガイドラインでは、20歳以下の者に対しては積極的な検査を薦めていません。今までは治療薬がなかったことから、早くに診断することにあまりメリットがなかったからです。また、保険に入れなくなるなど、社会的に不利益になることがあるからです。しかし、治療薬の登場でこれからは少しずつ変わっていくかもしれません。現状では、特に症状がなければ、20歳以上になるのを待って、お子さんご本人の意思で検査を受けるか決めていただくことが推奨されています。

Q. 食べてはいけないものはありますか? お酒は飲んでもよいですか?
A. 絶対に食べてはいけないものはありません。腎臓を守るために、塩分は控えめにすることが非常に大切です。また、カフェインの摂取も控えたほうが良いとの研究報告もあります。近年はカフェインレスの飲み物も多岐に渡りますので、気に入るものを探されるのも楽しいかもしれません。飲酒に関しては、積極的に飲むことはお勧めしませんが、お祝いの席などで軽く楽しむ程度であれば、問題はないでしょう。

順天堂ADPKD外来

火曜日・木曜日 午前 河野春奈
火曜日午後・木曜日午前・午後 武藤 智
月曜日 午前 堀江重郎

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電話:03-3813-3111(順天堂医院大代表)より泌尿器科にご連絡ください。

サムスカ(トルバプタン)による治療も受け入れています。お気軽にご相談ください。