前立腺がんのホルモン療法について
前立腺は男性ホルモンであるアンドロゲンの影響を受け増殖します。前立腺がん細胞も同様にアンドロゲンの影響を受けます。そこでアンドロゲンの分泌や働きをブロックして、がんの増殖を抑えようというのが、ホルモン療法です。
ホルモン療法は脳の下垂体に働きかける薬剤を注射することで、精巣からアンドロゲンが分泌するのを抑える方法と、「抗アンドロゲン剤」を内服して、アンドロゲンが前立腺の細胞に働きかけるのを防ぐ方法の2つあり、この両者を併用するMAB療法と呼ばれる方法が多く行われています。ほとんどの患者さんで治療効果が発揮されます。順天堂医院では患者様と相談の上、たとえ進行がんであっても薬物療法だけでなく、放射線治療やロボット支援手術などを含めた最良の治療法を検討します。
- 下垂体に作用するもの 注射剤
リュープリン、ゾラデックス、ゴナックス - 抗アンドロゲン剤 内服薬
カソデックス(ビカルタミド)、オダイン、プロスタールなど - 女性ホルモン剤
エストラサイト、プロセキソール - さらにアンドロゲンを強力に抑える新規ホルモン治療薬剤
イクスタンジ(エンザルタミド)、ザイティガ(アビラテロン)
注射薬は1ヶ月もしくは3ヶ月に一度、内服薬は連日服用いただきます。注射は臍の周りや大腿、上腕の皮下脂肪が多い部位に注射します。注射部位が赤く腫れたり、固くなることがありますので、その際は主治医にご相談ください。
順天堂医院で使用している主なホルモン治療剤
ホルモン療法と骨粗鬆症
ホルモン療法は非常に有効な治療法ですが、アンドロゲンが押さえられることで、骨密度が低下します。骨密度が低下すると骨折や腰痛等の症状が起き、生活の質が低下します。
順天堂医院では、ホルモン療法を開始された患者様に対して、早期から骨密度の評価を行い、骨粗鬆症対策を行っています。主な治療法は年一回、リクラストなどの骨粗鬆症の予防薬を点滴投与します。歯の副作用が出ることがあるため、投与前と投与後も定期的に歯科受診をしてもらいます。
ホルモン療法後の経過
ホルモン療法の効果の持続期間には個人差がありますが、前立腺がんの悪性度を示すグリソンスコアの点数が高い人、腫瘍マーカーPSAが最初から高い人、転移をすでに認める人は比較的早期に効かなくなる傾向があるようです。中には治療を継続することで、長い人は10年以上も病気が進行することがない人もいます。 効果の判断はPSAが最も鋭敏です。PSA値が低下している間はがん細胞が押さえられていると考えられます。逆に上昇した場合は病勢が悪化していると言えます。その場合は注射や内服薬を変更して、経過を見る場合が多いです。
ただし、PSA値と病勢が一致しないこともありますので、定期的なCTや骨シンチグラムなどの画像による評価も必要です。
アンドロゲン除去治療
抗アンドロゲン剤を長期間使用していると効果がなくなりPSA値が上昇する場合があります。そこで内服薬を一度中止するとPSA値が下がる場合があります。
アンドロゲン交替療法
アンドロゲン除去療法によって下がったPSA値も、多くの場合半年程度で上昇してしまいます。その際には、別の抗アンドロゲン剤やイクスタンジ(エンザルタミド)やザイティガ(アビラテロン)などの新規ホルモン剤を使用します。
去勢(ホルモン)抵抗性前立腺がん
転移性の前立腺がんはいずれホルモン治療に抵抗性になります。このホルモン抵抗性の病態を「去勢抵抗性前立腺がん」と言います。この状態になると、通常はさらにアンドロゲンを強力に抑える新規薬剤イクスタンジ(エンザルタミド)やザイティガ(アビラテロン)を使用します。この薬剤は非常に効果的な薬剤であり、海外の報告でも去勢抵抗性前立腺がんの全生存率の延長に寄与しています。しかし、この薬剤でも初期投与から効果を示さない患者さんが約3割いるのが現状です。また、投与継続中にだんだん効果が落ちてきて、下がっていたPSA値が再度上昇してくることもあります。
これら新規ホルモン薬剤の加療を行なっても、PSA値が上がってきたらどうするか。この悩ましい点を打開したのが抗がん剤のドセタキセルです。
抗癌剤というと吐き気など副作用の強いイメージがありますが、ドセタキセルの副作用は比較的軽く、外来通院での加療が可能です。がんがホルモン治療に抵抗性になり、アンドロゲン除去療法や交替療法を行っても、PSA値が上がってきたらどうするか。この悩ましい点を打開したのが抗がん剤のドセタキセルです。投与方法はドセタキセルを3-4週毎に点滴注射します。また白血球が下がることが多いので、一般的には投与してから約1週間後に外来で白血球を増やす薬を投与します。
順天堂では外来通院で抗がん剤の治療可能です。副作用の確認のため、初回導入の際には入院での投与をお願いしています。
副作用の起こりやすい時期 | 主な副作用 |
当日 | アレルギー反応 |
数日以内 | 発疹、悪心・嘔吐、食欲低下 |
数日〜数週間 | 骨髄抑制、口内炎、筋肉痛、下痢など |
数ヶ月 | むくみ、しびれ、倦怠感など |
投薬のスケジュール
ドセタキセルなどの抗がん剤治療中でも、ホルモン療法は引き続き継続します。またステロイド内服薬を併用することが多いです。
近年では、今まではホルモン抵抗性なってから使っていたドセタキセルを、診断の時点でかなり悪性度が高い場合や転移が多い場合には、ホルモン抵抗性になる前の早期から使用した方が良いと報告されています。
順天堂では、これらの考え方に基づき、症例によっては、ホルモン治療と並行させて早期からのドセタキセル治療を積極的に導入しています。
また、ドセタキセルでも抵抗性になった場合の新規抗がん剤として、カバジタキセル(ジェブタナ)が2014年に発売されました。これはドセタキセル抵抗性の前立腺がんに対してでもさらに効果があるとされますが、白血球がドセタキセルに比べると、より高度に低下するため易感染性となります。このためドセタキセル同様に初回導入時には入院で投与し、外来投与時もより持続的な白血球を増やす薬剤であるジーラスタを併用することが多いです。
去勢抵抗性前立腺がんの治療法の選択
去勢抵抗性前立腺がんに対しては、2014年からカバジタキセル(ジェブタナ)、新規のホルモン治療剤エンザルタミド(イクスタンジ)とアビラテロン(ザイティガ)が適応となり、大きく治療選択肢が増えました。しかし、それぞれの薬剤には特徴的な副作用もあり、またアビラテロンは必ず傾向ステロイド薬との併用をせねばならないといった特徴もあり、今後どの薬剤をどういったタイミングで服用するかという何らかの指標が必要となります。順天堂では、定期診察時の採血を少し多めに取らせて頂いて、患者さんの採血から得た血中循環腫瘍細胞を解析する研究を行っています。この解析では、血液に含まれる腫瘍細胞を調べることで、新規ホルモン薬剤の効果を予測できることがわかりました。この研究によって、患者さん個人個人に治療効果の高い薬剤を選択できる可能性があります。
前立腺がんと骨転移
がんが進行すると転移を起こし、前立腺以外の場所にがんが発生してしまう事があります。前立腺がんの転移部位として圧倒的に多いのが骨で、転移のうち85%に達しています。
主な症状は痛みで、神経に影響が出るとしびれや脚が動かないと言った麻痺の症状が出現する場合もあります。順天堂では下記のような薬剤などで治療を行っています。
骨転移に対する治療
ゾメタ(ゾレドロン酸)、ランマーク(デノスマブ)という薬剤を使用します。だいたい1ヶ月に1回の皮下注射で、外来で投与します。骨を壊す破骨細胞の働きを抑えて骨を守り、骨病変の進行を遅らせます。これらの薬剤により、骨転移の痛みや骨折のリスクなどを軽減します。ただし、カルシウム値が下がる事があるため、カルシウム製剤とビタミンDを同時に摂取してもらいます。
骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対して、2016年に我が国でも使用可能となった放射線医薬品であるゾーフィゴは、静脈注射で投与され、体の内側から放射線を出して、骨転移に対して治療効果を発揮します。この放射線は、アルファ線と呼ばれるもので、ゾーフィゴは「ラジウム-223」という放射性物質です。このラジウム-223は、骨に集まりやすく、がんの骨転移巣に集積し、放出されるアルファ線が、骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます。この治療は、約4週間隔での注射を最大6回まで受けることができます。副作用は、主に骨髄抑制(貧血、白血球減少、血小板減少など)、悪心・嘔吐などですが、比較的軽度であることが多いです。この治療のためには、まず放射線治療科を受診して頂き、適応かどうかなどを泌尿器科と放射線治療科で一緒に相談しながら、適応であればスケジュールを決めていきます。また治療後は放射線治療科にも適宜通院加療して頂きます。この新規放射線医薬品は、海外での報告においても骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんへの全生存率延長や症状の改善などに寄与し、我が国でも非常に期待されている薬剤です。
骨転移の症状を改善する治療
適宜鎮痛剤を使用しますが、痛みの部分が限局している時には、そこに放射線を局所照射します。骨病変が多い時はストロンチウムという全身の骨転移への痛みに効果のある放射線治療を併用する事もあります。
10年後考慮した治療〜患者様のQOLを考慮〜
病的骨折のある場合、余命は悪くなってしまいます。圧迫骨折で寝たきりになり、肺炎(誤嚥性肺炎)や感染症を起こして免疫力が低下している患者さんの期待余命は、同じ条件で骨折のない方に比べると短くなります。骨転移による痛みイコール寝たきりとはなりません。痛みの緩和と早期からQOLの阻害要因となる骨痛や骨折(骨関連事象SRE)の抑制により、患者さんのその後の人生は変わってきます。ですから、たとえ完治できない進行した前立腺がんでも、その方の10年先を見据え、がんはあっても苦痛なく生活ができるという治療が必要だと思います。
「がん自体に対する治療」、「骨転移の進行を抑える治療」、「症状を改善する治療」の3つを上手に組み合わせることで、患者さんが抱えるさまざまな障害を包括的に解決していくことが重要です。
チーム医療の実践
順天堂では泌尿器科、整形外科、リハビリ科、ペインコントロール科でチームを結成し取り組んでいます。
骨転移治療薬をうまく使い、骨転移やそれに伴う骨関連事象をコントロールしていくことが、前立腺がん患者さんのQOLの維持につながります。
専門外来のご案内
順天堂では前立腺癌の診断や治療に関してご相談できる専門外来をもうけております。 もし治療方法などでお困りの際は一度ご相談ください。 なおロボット手術に関してはロボット手術専門外来をもうけておりますので、ロボット手術のページをご参照ください。
前立腺外来
毎週水曜日午後13時〜 予約制 担当(北村)