腎がんの治療は手術療法が第一です。しかし転移がある方や合併症などのため手術が困難な方の場合は薬物療法を行います。腎がんの薬物治療には「免疫療法」と「分子標的治療」があります。
薬物療法を行ってもがんを完全になくすことは難しいですが、がんの大きさを小さくしたり、がんの進行を遅らせたりする効果が期待できます。 有効な抗がん剤がなく、手術以外の治療法に乏しいと言われてきた腎がんですが、近年、新しい分子標的薬が次々登場したことで治療の選択肢が広がり、患者さん個々の状態に応じた治療が行いやすくなりました。
免疫療法
サイトカイン療法
免疫を担当している細胞(リンパ球など)やタンパク質(サイトカイン、抗体など)のはたらきを活性化させることでがん細胞を攻撃し、がんを抑制する治療法です。腎がんでは、インターフェロン製剤とインターロイキンの2つの薬剤があります。標準的に行われているのは、「インターフェロン製剤」を注射する方法で、15~20%ほどの患者さんに、がんが半分以下に縮小する効果が見られます。
順天堂医院では、転移巣が肺転移のみであり、比較的サイズが小さく、転移数が少ない症例に対しては、初期治療としてインターフェロン治療を行っています。通常は1週間に2-3回の皮下注射を行なっていただいています。
インターフェロン治療の副作用には次のものが挙げられます。
- 発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感 食思不振意欲低下
- 白血球減少、血小板減少
- 甲状腺機能異常
- 耐糖能異常
- 間質性肺炎
- 神経精神症状
- 目および網膜の症状
- 脱毛
- 皮膚症状
- 循環器の症状
新規免疫治療薬剤
最近、がんへの免疫治療の新たな薬剤が、さまざまながんで登場しています。腎がんの治療としても、免疫にかかわる分子への標的薬剤の開発が進んでおり、海外では非常に良好な成績が報告されています。これらは主に「免疫チェックポイント阻害剤」と言って、 がんが免疫を逃れて生き延びようとする機構をブロックして、がんに対する免疫によりがんの進行を抑える治療です。これらは免疫治療に分類されるものの、特定の免疫にかかわる分子を標的にする薬剤であり、分子標的薬の一部でもあります。
この免疫チェックポイント阻害剤の一つ、ニボルマブという薬剤は、進行悪性黒色腫(メラノーマ)および進行性肺がんの治療薬として、既に国内でも認可されています。順天堂では、このニボルマブ等の免疫チェックポイント阻害剤の治験にも協力し、その有効性と安全性を検証していました。そして、2016年の夏、転移性腎がんもしくは切除不能腎がんに対してニボルマブが日本でも保険適応となりました。これらは、進行腎がんの治療として、長期の効果を期待できる今後非常に期待できるものであります。
ニボルマブ (オプジーボ)
効果の機序
がん細胞は、それが増殖する過程において、T細胞などの免疫の攻撃から逃れる能力を獲得します。その一つの機構として、がん細胞は、自らが持つPD-L1という分子とT細胞にあるPD-1という分子と結合させることで、自分を攻撃をさせないような信号を出し、その結果T細胞からの攻撃を回避します。ニボルマブは、このPD-1に結合して、がん細胞の免疫への回避機構を防ぎ、がん細胞はT細胞に攻撃されることで抗腫瘍効果を示します。
投与方法と通院間隔
2週間に1回の点滴治療です。入院でも投与可能であり、通常は2週ごとの通院で、外来化学療法室で投与します。次の項で述べる副作用に対するモニタリングのため、基本的には毎回の採血採尿をお願いしています。また適宜、レントゲン写真やCT検査など画像検査も行ないます。
副作用について
この薬剤は免疫機能を上げるため、正常細胞に対する免疫反応が過剰になることがあり、自己免疫疾患のような副作用をきたすことがあります。これらは全身のいろいろな臓器に起こりうるものであり、重篤になる可能性もあります。主なものは、皮膚障害、腸炎(下痢や腹痛など)、間質性肺炎、糖尿病(主に1型といわれるもの)、肝障害、内分泌障害(甲状腺機能低下症など)、腎障害、点滴投与に対するアレルギー反応などがあり、その発症時期もさまざまです。この副作用については、我々医療者側も十分に理解していますが、患者さんご本人やご家族も、それぞれどういった症状が出るのかを知って頂く必要があります。投与開始時にはこの点について、冊子をお渡ししてご説明しますので、起こりうる症状についてご理解頂き、一致するような症状が表れた場合には、連絡頂くか外来受診頂くかで医師や看護師へご相談下さい。
また、これらの副作用の可能性のため、今まで自己免疫疾患にかかった既往のある方や、間質性肺炎の治療中、もしくはその既往のある方は治療ができない可能性があります。
分子標的薬
分子標的薬治療は切除不能、または転移がすでにある腎細胞がんの患者さんが対象になります。このような患者さんには、これまでサイトカイン免疫療法のみが効果的な治療とされていました。分子標的薬は日本では2008年から使用可能となり、チロシンキナーゼ阻害薬とmTOR阻害剤の2つのタイプがあり、現在では合わせて6種類の薬が使用できるようになっております。これらの薬は、腫瘍を小さくしたり、増大を遅らせたりする効果があります。発売開始当時から使用し、現在も治療継続されている患者様もいらっしゃいます。
これらの薬は特徴的な副作用が出現することがあるため、当院では分子標的薬の専門外来を設けて治療に当たっています。
現在使用可能な分子標的薬
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)
ネクサバール (ソラフェニブ)
通常1日4錠内服の経口剤です。毎日内服します。手足症候群と言って、手や足の表皮剥離や皮疹ができることが比較的あるため、予防的に角質除去や保湿剤を使用してもらいます。他の副作用は、高血圧、下痢や食指不振などがあり、稀ですが消化管出血などが起こることがあります。
スーテント (スニチニブ)
通常1日4カプセルの内服薬ですが、状態に応じて2-3錠から開始することもあります。投与方法は、4週間投与で2週間休薬か、もしくは2週間投与で1週間休薬かのサイクルで内服していきます。やや管理が面倒にはなりますが、2投1休の後者の投与方法で主に内服して頂いています。副作用は、血球減少、とくに血小板減少や、手足症候群、倦怠感、甲状腺機能障害などです。消化管出血や心筋障害などの重篤な副作用も稀ですが起こりえます。
インライタ (アキシチニブ)
通常10mgを2回に分けて内服します。この薬剤は1mgずつ増量減量できるので、副作用と全身状態に応じて個人個人で微調整していきます。毎日内服します。副作用は、蛋白尿が生じることがありますので、1日の尿量を測定してもらい、尿蛋白量を定量することもあります。高血圧も比較的よく起こる副作用です。他には、下痢や食指不振、疲労感などです。
ヴォトリエント (パゾパニブ)
チロシンキナーゼ阻害薬の中では最も新しく、2014年から進行腎がんに対して使用可能となりました。通常4錠の1日1回の毎日内服ですが、食事の直後ではなく、食事の1時間以上前や食後なら2時間は開けて頂いて内服します。副作用に応じて、1日2-3錠に適宜減量することもあります。副作用としては、肝障害があり、生じた場合にはしばらく休薬することもあります。他には、下痢や食指不振、高血圧や毛色変色などがあります。
これらチロシンキナーゼ阻害剤の共通の副作用として、倦怠感や食指不振、下痢、高血圧、腎障害、蛋白尿、手足症候群、甲状腺機能低下、肝障害、膵酵素(リパーゼやアミラーゼ)上昇、血球減少などがありますが、これらの薬剤による起こり得る副作用は比較的広いため、外来ではほぼ毎回の血液・尿検査をお願いしています。また高血圧などの副作用の出現は、薬剤が効いている指標となるとも言われており、副作用が出たら薬剤をすぐに中止するのではなく、降圧剤などの使用で副作用をうまくコントロールすることが大切です。
mTOR(エムトール)阻害剤
アフィニトール (エベロリムス)
通常1日2錠の内服薬で、副作用の強くない限りは休薬せず毎日使用します。最も多い副作用は、口内炎であるので、予防的にうがい薬などを使用して頂いております。間質性肺炎は副作用としても重篤になりえるため、間質性肺炎マーカーや胸部レントゲンによる定期チェックが必要です。咳や発熱、呼吸苦が出た場合は、すぐ受診して頂くか、休薬して下さい。またこの薬剤は、免疫抑制剤として使用されることもあるので、易感染性をきたすことがあり、肝炎のキャリアなどがあるとすぐには使用できません。他には腎機能障害や血球減少などがあります。
トーリセル (テムシロリムス)
週に1回の点滴投与の薬剤です。通常は週に1回外来で投与します。アレルギー反応が出るのを抑えるために、事前に抗アレルギー剤を内服するか、投与前に抗アレルギー剤を点滴で入れてから使用します。副作用は、アフィニトールと同様に間質性肺炎があり、重篤になる可能性もありますので、呼吸器症状が出たら受診下さい。また免疫低下作用を有するため、口内炎や易感染性も同様にあります。腎障害や血球減少も起こりうる副作用です。
費用について
分子標的薬は高額な薬剤です。通常1ヶ月で15万円程度の費用がかかります。現在外来通院でも高額療養費制度が使用可能であり、それを使用すれば自己負担額はその他検査費用なども含めて8万円程度に制限されます。また、ニボルマブはさらに高額であり、薬価総額だけでも月に250万円以上かかります(ただし、今後減額される予定です)。これに対しても、高額療養費制度や限度額適用認定などの手続きなど利用できますので、費用についてご不明な点は支援センターなど各相談窓口へご相談下さい。
専門外来のご案内
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は特徴的な副作用があり、それにうまく対処しながら、なるべく長期間に使用していく必要があります。ほぼ受診毎に診察前採血採尿をお願いしており、適宜胸部レントゲン写真やCTなど画像診断も行ないます。副作用のマネジメントで併用薬が多くなる傾向にありますので、順天堂医院では専門外来をもうけており、専門的に対処させて頂いております。
- 分子標的薬外来
- 毎週月曜日午後13時〜 予約制
- 担当 永田政義