腎移植(腎不全に対する腎臓移植)

腎移植について

腎移植は、末期腎不全患者に対し新しい腎臓を移植することで腎臓の機能を回復させる治療法です。末期腎不全患者における血液透析、腹膜透析に替わる治療法の一つとなります。提供される腎臓提供者の生死により、死体腎移植および生体腎移植に大別されます。

腎移植の種類

生体腎移植

腎臓は左右一対に存在する臓器であり、正常な腎機能であれば片方の腎臓でも恒常性の維持が可能です。このため、ドナーの左右どちらかの腎臓を、腎不全患者のレシピエントに提供する生体腎移植が可能となります。従来、親子間での移植が大半を占めていましたが、新しい免疫抑制剤による拒絶反応の抑制や血漿交換術の発展により、遺伝的に関連のない夫婦間や血液型不適合間の腎移植も増加傾向にあります。

献腎移植

献腎移植とは亡くなられた方から腎臓を提供して頂く移植のことです。献腎移植には心臓死からの移植と脳死からの移植があります。献腎移植を希望される場合には臓器移植ネットワークにあらかじめ登録する必要があります。

腎移植と透析の違い

透析療法と比べ時間的な制約が少なく、腎臓の機能を代行するという意味では腎移植がはるかに優れていますが、免疫抑制剤の服用が不可欠となります。

一般的な条件

本人の意思で移植を希望されている方全員が移植の対象となります。
対象疾患は糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、IgA腎症、腎硬化症、先天性腎低形成、馬蹄腎、嚢胞腎、妊娠中毒症などとなります。日本移植学会では下記の適応基準が設けられています。生体腎移植の場合、腎臓提供者は親族6親等ならびに姻族3親等までが腎提供が可能です。

腎移植希望者(レシピエント)適応基準

  1. 末期腎不全患者であること
    透析を続けなければ生命維持が困難であるか、または近い将来に透析に導入する必要に迫られている保存期慢性腎不全である
  2. 全身感染症がないこと
  3. 活動性肝炎がないこと
  4. 悪性腫瘍がないこと

腎臓提供者(ドナー)適応基準

  1. 以下の疾患または状態を伴わないこととする
    1. 全身性の活動性感染症
    2. HIV抗体陽性
    3. クロイツフェルト・ヤコブ病
    4. 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く)
  2. 以下の疾患または状態が存在する場合は、慎重に適応を決定する
    1. 器質的腎疾患の存在(疾患の治療上の必要から摘出されたものは移植の対象から除く)
    2. 70 歳以上
  3. 腎機能が良好であること

自己負担額

特定疾病療養制度をはじめとしたさまざまな医療費助成制度により、ドナー、レシピエントとも大きな自己負担なく手術を受けることができます。退院後の診察、検査や免疫抑制剤の費用についても、自立支援医療制度に加え、各自治体の助成制度により、自己負担額も無料になる場合も多い。透析開始前の腎移植などにより、これらの助成制度が適用されなかった場合でも、保険診療で行われた場合は高額療養費制度が設けられているため、極端に高額な自己負担額が発生することはない。

移植後の生活

1. 移植後2週間

ご自宅に帰った場合、病院から指定されたお薬(特に免疫抑制剤)をしっかり内服することを心がけましょう。この時期は免疫抑制剤の投与量がしばしば変わることがあります。投与量を間違わずに決められた時間にきちんと服用するように気を付けましょう。また、水分の摂取も十分に行います。体格や個々の患者さんの状態で異なりますが、初期の段階ではだいたい2000~2500mlぐらいの飲水を勧めています。自宅療養しながら、外出が必要な際は基本的に人ごみを避けるようにし、できるだけマスクを装着して、手洗い、うがいを励行するようにして下さい。

2. 移植後1ヵ月

少しずつ免疫抑制剤の投与量が安定してくるころですが、まだ外来受診のたびに投与量が変わってくることがあります。お薬の変更などの際は確実に指示を守るようにしましょう。
少しずつ外出する機会が増えてきますので、帰宅の際には手洗い、うがいを励行して下さい。移植をするとこれまで以上に食欲がわいてきますが、食べ過ぎはよくありません。アルコールも節酒して下さい。定期的に体重計に乗ってきちんと体重管理をしていきましょう。同様に血圧も定期的に自宅で測定して、血圧が高いような場合は主治医に申し出てください。

3. 移植後3ヵ月

拒絶反応やウイルス感染症などがなければ腎機能、免疫抑制剤の投与量が安定してきます。
水分も1500ml~2000mlぐらいの摂取量に落ち着いてきます。夏場、汗をかく場合は普段より多めに水分を摂取することを心がけましょう。この頃から新鮮なお刺身などは食べてよいようになります。また運動に関しては軽いものであれば開始できるようになります。ただ、極度な低リン血症や骨粗鬆症の方は急に運動を始めることで骨折などを起こす可能性もあります。運動を始める前に必ず主治医に相談して下さい。

4. 移植後1年

通常、腎生検が行われ、移植腎の組織学的な状態がわかります。拒絶反応がなければ一安心ですが、以後も免疫抑制剤の内服はきちんと行っていくことが重要です。また、移植後から血圧、体重管理を行っていますが、これらのこともきちんと行っていくことが大切です。またこれ以後、40歳代以上の移植患者さんは年に1回の人間ドックを受診されることをお勧めします。

5. 移植後3年

かなり日常生活も安定した時期にきていますが、ここでも改めて血圧や体重管理などの生活習慣を見直し、年に1回の人間ドックや健診を行い、更なる長期生着をめざしてください。

6. 移植後10年

腎機能が安定しており、他疾患の合併もない状態であれば、これまでの管理がしっかりしていたということになります。そのままの状態を継続するようにしてください。
移植後より血清クレアチニン値が上昇している場合も、食生活、生活習慣をきちんとすることで上昇のスピードを抑えることができます。一つ一つきちんとやっていく積み重ねが大切です。

移植後に起きることがある症状と対策

~注意が必要な症状と対策~

◆発熱

38℃以上の発熱であれば原則受診するようにしてください。 夜間であれば当直医に連絡してください。発熱は様々な原因で起こります。 原因を特定することが大切であり、場合によっては入院加療の可能性も十分あります。

◆尿量の減少

1日400ml以下の尿量を乏尿といい、このような状況は移植腎によくありません。原因として、水分を摂取しているにもかかわらず尿が出ない場合と、当初から水分を摂取していない場合の2つに分けられます。
前者は腎機能低下、心機能低下、発熱、下痢などの感染が考えられ、後者は大量発汗、胃腸障害から飲水できないことによる脱水などが主な原因です。いずれの場合も移植腎に良い影響を与えませんのですぐに受診してもらう必要があります。

◆移植腎が硬い、痛い

一般的には拒絶反応の兆候です。すぐに受診する必要があります。
しかしながら、急性腎盂腎炎でも似たような症状が起きます。いずれの場合も受診して血液検査、エコーを早急に行って診断を確定させます。