多発性嚢胞腎のサムスカ(一般名:トルバプタン)治療・患者さまの声 1

ご年齢:50代  性別:男性

1.サムスカによる治療を受けると決めた理由は何でしたか?

私は、父の家系に腎臓の病気(嚢胞腎)の方が多く、子供の頃から何となく将来自分も腎臓病になるのかなという意識がありました。
私の父方の祖父は私の父が子供の頃腎不全で亡くなったそうです。また父も40代後半から人工透析治療を受けていました。父の姉も同様でした。
また近親者では、私の姉も5年程前急性腎不全となり、母の腎臓を移植しています。
特に父の人工透析は辛そうでした。週3回毎回数時間かけて透析を受けていましたが、透析直後は元気にはなるものの、水分を大量に抜くせいか、次第にやつれていくように見えました。その後20年弱透析を受けていましたが、脳梗塞を発症し、60代半ばで亡くなりました。
この父の様子を見ていて、人工透析は出来れば避けたい、何か良い方法はないかと思っていました。日頃から塩分は控えめにするよう心がけてはいましたが、限界はあります。その中でサムスカによる治療法が新たに開発されたと医師より話を聞き、治療を開始することにしました。
治療には生活上それなりの制約が発生します。そのため、治療開始の動機が非常に重要だと思います。

2.治療を始める前に、不安だった点を教えてください。

治療開始前の主な不安は、①薬による副作用、②沢山の水を継続的に採ることができるのか、それに伴う生活上の制限はどの程度か、③薬代が高額なので、支払えるか ④食事制限はあるか ⑤効果は期待できるか といった点でした。
それぞれの点に分けてお答えします。

① 私が治療を始めた当初は、サムスカによる治療が開始された直後であり、治験が十分であったのか、またどのような副作用があるか正直不安でした。特に肝臓に重篤な影響があったとの症例報告もHP等で指摘されており、自分が副作用で新たな病気になったらどうしようかとの不安を抱えていました。しかし1年経過した今、肝機能その他に特に問題は起きていません。また毎月血液検査を行う(1回10mL程度の採血なので体への負担は小さい)ので、変化があれば把握が可能とのことで、安心しています。また万一変化があれば即治療を中止する方針とのことでした。

② 私は会社員で普通に会社に勤務しています。幸いなことに事務職のため外回り等はなく、ほぼ1日中社内にいますので、継続的に水分を摂取することが可能な環境です。それでも、通勤時(約1時間)駅のトイレには必ず1度は立ち寄る必要があり、また長時間の会議等では、トイレに行くため抜けることがあります。私の場合大まかに言って1時間半がトイレを我慢できる限界です。精神的な不安感もあり、凡そ1日に20回はトイレに行っているのではないかと思います(医師注釈;この患者さまは、1日6〜7Lの水分摂取をされている患者さまです。薬の効き具合や飲んでいる薬の容量には個人差があり、もっと少ない水分量ですみ、トイレの回数が少ない患者さまも多いです)。また土日等の外出時には、必ず水を持って出かけています。また、夜には数回トイレで目を覚まします(医師注釈;夜のトイレの回数も個人差がありますが、少なくとも夜1回はトイレに起きるようになる方がほとんどです。)夜寝付かれないという方には、負担が大きいかもしれません。そのため生活に何の支障もないということはありません。但し、私の場合は先述のように人工透析にはなりたくないという思いの方が強いため、不便だけれども許容できる範囲の事柄だと前向きに捉えています。(水分摂取方法等については以下5ご参照
また季節により多少の変動はありますが、現在はもう少し飲水量を減らしても良いとのお話もいただいています。

③ 以下7ご参照
④ 以下6ご参照
⑤ 効果については、治療を始めてまだ1年しか経過しておらず、正直良く分かりません。サムスカによる治療自体で病気が完治するものではなく、進行を遅らせるものである面もあります。ただし、生活上の多少の不便はありますが、逆に(私の姉のように)急性腎不全といった状況にもない訳で、この面では良かったという捉え方をしています。

3.実際に治療を始めてみて、いかがでしたか?

残念ながらこれまで通りの生活が続くという訳にはいきません。特に大量の水分摂取による頻尿により生活上の制限が出ます。それは上記2の②に記載した通りです。
通院は月に1回です。土曜日も診ていただけているので、会社を休む必要がなくとても助かっています。また幸いにも順天堂大学病院が勤務先に極めて近いという幸運もありました。そのため、考えていたよりも負担は少ないように思います。ただ人により生活のリズム等は全く異なるので、事前に十分に医師にご相談されることをお勧めします。

4.生活上の制限について、より詳しく教えてください。

最大の問題は水分の大量摂取による頻尿です。トイレに1日に20回以上と記載しましたが、実際に行きたいというより精神的な不安感もあって回数が増えているのだと思います。(医師注釈;先述のとおり、患者さまによって個人差があります。)
しかし旅行時などは先生に日程を伝えて薬を減らすことで対応頂いており、ほぼ普通通り旅行を楽しんでいます。私は趣味の1つがスキーで、年2回北海道に出かけます。寒いこともありスキー場までのバスの移動で不便を感じることはありますが、あまり問題はありません。治療前には大人用おむつの着用も必要ではないかと考えたこともありましたが、特に不要です。
その他は特に制限があるようには思っていません

5.水分を採る工夫や、排尿に対する工夫などがあれば教えてください。

平日会社では30分を目安に水を飲んでいます。水道水でも良いかもしれませんが、何となく嫌なので卓上型の浄水器を購入し、濾過して飲んでいます。方法としては朝2Lのペットボトルに2本水道水を入れて足元においています。私の場合神経質な方で、当初は飲水量管理をどうしようかと悩んだこともありましたが、今は2Lのペットボトル何本分という管理で基本問題はありません。また水を飲むグラスは大きめのマグカップを用意し、1回250mLにしています。1回250mLだと2Lのペットボトルが8回で、例えば30分毎に250mL飲むと4時間でなくなり、計算が簡単です。あとは朝食時、昼食時の凡その飲水量を把握します。基本的にはサムスカによる治療開始時の入院時に頂いた飲水チェック表を自分で作成し、累計飲水量が分かるように記録しています。
これは排尿に関する工夫にもつながると思います。1回に500mLはなかなか飲めません。また一度に大量に飲むと下痢症状となります。人により違うと思いますが、私の場合1回に250mLが適量だと感じています。また時間管理は実際にはなかなか難しいのですが、何より定期的な摂取が重要だと思います。
その他排尿に関する工夫では、通勤時等で利用する駅のトイレの場所を正確に把握しておくことにしています。また電車に乗る前は必ず駅でトイレに入ってから乗るようにしています。電車の場合途中で止まることもあります。今でも不安はありますが、トイレの場所を把握し、乗る前にトイレに行っているだけで、かなり精神的な不安感は和らぎます。

6.食事制限や塩分制限はありますか?また、お酒は飲んで良いのでしょうか?

私の場合以前から気を付けてはいましたが、食事について先生から特に新たな指導を受けたことはありません(ただ塩辛い物でも何でも良いということは多分ないと思います)。また水分なら、水に限らずコーヒーやお茶などもカウントして構わないといわれています。ただ飲む量が量ですので、水以外の飲み物では、例えばカフェイン量が極めて多くなってしまい、結果夜寝付けないということにつながるかもしれません。ですから私はほぼ全量を水で飲んでいます。
お酒については、飲んでも構わないが、飲水量にカウントしてはいけないといわれています。私の場合以前は週1~2回位飲んでいましたが、これだけ水を飲むと、正直カウントできないお酒を飲む気があまり起きません。今は月に1回程度だと思います。それでも同僚等と飲みに行く場合は、お酒は控えめにして、後はウーロン茶やお水をもらって飲んでいるので、特に問題は感じません。但しお酒が大好きな人にとっては、やや辛いかもしれません。

7.薬が高額ですが、治療費はどうなりますか?また補助金等はありますか?

多発性嚢胞腎が難病指定となり、健康保険組合にもその旨届け出たところ、1回あたりの病院での支払いの上限額が決まり、安心して治療にのぞめています。
(医師注釈:支払いの上限額は、収入(正確には納めている税額)によって異なります。)
私の場合は健康保健組合からの補助金と、自治体からの難病補助金が支給されており、さらに負担が軽減しています。全てを合わせて、月8千円ほどの負担ですんでいます。
(医師注釈;お勤め先によりますが、場合によっては健康保険組合からの補助金が出ます。必ずご自身が加入されている健康保険組合にご確認ください。自治体からの補助金は、限られたごく一部の自治体で行われております。各自治体にお問い合わせください。)

8.夜トイレには何回おきますか?睡眠はとれますか。

私の場合、睡眠時間は1日約7時間です。この間に平均3~4回トイレに立ちます。治療中の平均値よりやや多いのかもしれません。ただ幸いなことに、私の場合寝付きが極めて良いことから、睡眠不足や眠気を感じることはありません。ここも個人差が大きいかと思いますので、医師と十分に相談した方が良いと思います。
(医師注釈;通常よりも夜間尿の回数はやや多い患者さまです。夜間の尿回数は1〜3回の方がほとんどです。)

9.これから治療を考えている方に対して、メッセージをお願いします。

私もそうでしたが、治療を始める前は誰しもかなり不安に思われると思います。また生活に影響があることも事実です。しかし多発性嚢胞腎という病気は、残念ながら個人差はあれ確実に日々進行するものです。サムスカによる治療も発現を遅らせるだけという見方もできるかもしれませんが、今は残念ながらこの治療法に頼るしかありません
私には2人の娘がいます。検査した訳ではありませんが、恐らく発病の可能性は高いでしょう。遺伝子治療ができない現状、1人でも多くの治験例を集め、研究を進めていただく必要があると考えました。それが未来ある子供たちに対してできる唯一の方法だと考えています。
先生からは、万一副作用等が出た場合は、すぐに治療を中止するといわれました。当時の私にとってはこの言葉が非常に大きかったと思います。一度始めると後戻りできないのではないか、別の病気を発症したら・・・。でも後戻りができないわけではないと感じたのです。
とにかく前を向いて病気に積極的に立ち向かうことこそが我々にとってできる唯一の方法ではないでしょうか
色々不安はお持ちでしょう。生活上制約を受けることもあるでしょう。でもそこに甘んじていては、この病気に決して打ち克つことはできません。もし共感していただけるのであれば、ともかく先生にご相談されることをお勧めします。相談して治療しない選択も可能です。また途中で断念することも可能です。一度専門医に相談されることを是非ともお勧めします。