ロボット支援根治的膀胱摘除術(Robot-Assisted Radical Cystectomy: RARC)とは

腹部をメスで切開し、お腹を開けて膀胱を摘出する開放性根治的膀胱摘除術は、長い間浸潤性膀胱癌に対する標準的な治療でした。しかし、膀胱を摘出しその後新たな尿の通り道を作る必要があり、どうしても創が長くなります。そのため決して患者さんの負担は少なくありません。できるだけ楽に患者さんに手術を受けていただくために今までもいくつかの工夫がなされてきました。その一つが腹腔鏡下根治的膀胱摘除術です。日本では2012年から保険診療として行われていますが、腹腔鏡がまっすぐの長い棒であり、これをお腹に入れて細かい作業を行うのは容易ではありません。手術を行う医師にも負担が大きく、さらにかなり高度なトレーニングが必要とういう欠点があり、あまり広がりませんでした。

泌尿器科ではロボット支援手術が前立腺全摘除術、腎部分切除術に以前より行われています。そのロボット支援手術の特徴を生かし、開放性手術よりも患者さんの負担を少なく行うために、ロボット支援根治的膀胱摘除術(Robot-Assisted Radical Cystectomy: RARC)は2003年に世界で初めて報告されました。その後世界各国で広がりを示していますが、日本では未だ一部の患者さんに対してしか行われていません。われわれはロボット支援根治的膀胱摘除術も積極的に多くの患者さんに行っています。

われわれのグループでは2012年11月27日に1件目のRARCを行い、2017年1月までに30例の患者さんに対してRARCを行いました。RARCは開放性手術に代わる患者さんの負担の少ない手術として最も期待されています。開放性手術と比べると術中出血量が明らかに少なく(図1)、術後ふつうの食事を再開できるのがより早く(図2)、入院期間が明らかに短い(図3)など多くの利点があります。一部の施設からは手術時間が長いことが報告されていますが、われわれの施設では開放性手術と比べて全く差がありませんでした(図4)。

図1:全出血量(中央値)

図2:術後常食開始日(中央値)

図3:全手術時間(中央値)

図4:入院期間(中央値)

膀胱を摘出した場合、腎臓で作った尿を体の外へ流す新しい管を作らなければなりません。これを尿路変更術と言います。現在では回腸導管造設術、もしくは新膀胱造設術が一般的です。まだ、RARCを受けた全ての患者さんに対して、尿路変更術もロボット支援手術で行うことは困難です。世界中を見ても、未だロボット支援尿路変更術の方法は確立していません。それでもわれわれは一部の患者さんに対してロボット支援体内回腸導管造設術を行いました。